地球一周クルーズ「ピースボート」回想録 リピーター・ベトナム

リピーター・ベトナム

ベトナムでは初めてこの旅を取り仕切る旅行代理店のオプショナルツアーを取った。

ツアー名は「ベトナムの若者と大交流」。
あたしは交流という言葉にとても弱く、交流=すばらしい、という既成概念がものすごくあるので、迷わずこのツアーに参加した。

船が港に着いたとき、非常にたくさんのベトナムの若者が、アオザイという、日本でいう着物のような存在の民族衣装と、阿波踊りをするときにかぶるような笠、という、非常にベトナムチックな格好であたしたちを出迎えてくれていた。
あたしたちは一列に並ばされ、ベトナム人も一列に並ばされ、そして、目の前のベトナム人とパートナーになる、という、なんだかお見合いでもしてるような雰囲気で、この旅は始まった。

あたしのパートナーはフンさんという28歳の七三分けの髪型をした、なんだか典型的なベトナムの若者という感じの青年だった。

彼はとても親切で、荷物を持ってくれたり、ご飯を運んでくれたり、付き人のようなことをしてくれた。

まずはベトナムの聾学校へ訪問。
あたしは、仕事はずっと教育関係なので、とても興味があった。

耳が不自由で、言葉はしゃべれないが、とてもかわいい子たちがいっぱい。
デジカメで写真を撮ると、見せてくれ見せてくれとこどもたちがたわむれる。

午後、バスに乗って交流会場へ向かう途中、バスの中を盛り上げるために、ベトナムの若者がベトナムの国家を教えてくれた。
歌詞で理解できた部分は、「べトナーム、ホーチーミーン」という部分だけで、一曲にそれが4回繰り返される。
それを1時間くらいの移動の時間で、20回は歌った。
そして、交流会場で20回は歌った。
次の日の帰りのバスで、10回は歌った。

私たちは、「べトナーム、ホーチーミーン」をベトナム2日間で200回は口走った。

交流会場では、みんなで縄跳びをしたり、バスケットボール大会をしたり、ゲームをしたりと、結構楽しかった。そして夜になり、メインの交流、ダンスが始まった。
日本側からのダンスは、船の中で2回練習をして覚えていった、マツケンサンバと、騎士団のワンナイトカーニバルで、この部分ではボックスステップとか、この部分ではぱっとポーズとか、結構まとまったダンスを披露し、パートナーに教え込み一緒に踊った。

そして、ベトナム側からのダンス。
あたしたちのダンスとは性質が違い、同じパターンをずっと繰り返すという、いわゆる社交ダンスと同じ要領。

そのパターンとは、これはひよこをモチーフにしているのか?という、翼を広げる形、目を手で囲いかわいらしいしぐさをする形、そしてこのとても単純なパターンを30回は踊った。

暑さも手伝ってへとへとになり、キャンプ会場へ。

ベトナム独特のキャンプファイヤーを期待しておいてくださいとスタッフに言われていたので、疲れながらもちょっとわくわくして眺めていたが、ベトナムの若者がキャンプファイヤーを囲み、やはり繰り返しパターンのダンスをちょっとした後、たいまつをとなりの人へと繰り返し渡し、中央に大きなファイヤーがついたと思ったら、また繰り返しダンスをする、といった内容のものだった。
単純だが、1時間はかかり、ずっと立って見ていたあたしはどんどん体力が奪われていった。

そして、11時ごろからダンスパーティのようなものが始まった。
日本人DJがいたので、日本の典型的なクラブナンバーに興奮し、2時間くらい踊りまくってしまい、体力の全てを使い切ってしまった。

しかし、予告されていた通り、夜は長く、ベトナムナンバーがどんどん流れてきて、疲れながらもまた繰り返しパターンのダンスを踊る。

もうこれ以上は勘弁してくださいというところまでがんばり、屋根とビニールシートしかない、いわゆる運動会用のテントでベトナムの女の子たちと、ベトナムナンバーをバックに寝た。

朝6時からベトナムホーチミンの曲で起こされた。
トイレに行ったら、全てのトイレの流れが詰まっていた。
参加者は100人を越えていたのに、水道はひとつしかなかった。
しかも私は歯ぶらしを忘れてしまい、非常に不快な朝だった。

肉まんとベトナム版シュークリームという朝ごはんが支給され、疲れきったあたしたちがもくもくと食べていたところに、パートナーのフンさんがにこにこして現れた。
彼も疲れてるだろうに、と、ちょっと同情したが、今日は全員パートナーに観光に連れて行ってもらえると聞いていたので、わくわくした。

交通手段は、50cc原付に二人乗り、ヘルメットなんてもちろんなし、という、日本では間違いなく捕まる行為だった。

しかし、日本ではない国を、風を切って走るというのは、なんとも気持ちがよかった。フンさんは、市内が一望できる、小高い丘や、お土産やさんや、ベトナムコーヒーが飲めるカフェや、ベトナム料理フルコースランチが食べられるレストランに連れて行ってくれた。

有名なベトナムコーヒー。
コーヒーと練乳というとっても甘いコーヒー。

彼はやっぱりとても親切で、バイクを運転しながらもしきりに話し掛けてくれたが、信号なんてあってもなくても同じというこの国で、交差点で後ろを見て質問してくれるのは、本当にやめてほしかった。

ランチを食べたレストランでは、もうすぐお別れということでたくさんの人がお酒を飲んでおり、バスが出る会場まで送ってくれたときは、二人乗り、ノーヘルに加え、飲酒運転まで加わって、超スリル満点、不安満点の帰りしなだった。

港までパートナーが送ってくれるという設定だったのに、なぜか、あたしのパートナーのフンさんだけは、バスを見送ってバイクで帰ってしまった。
超親切だっただけに、疲れてしまったんだろうと思った。

港で涙涙の別れをしてる人を横目にあっさりと船に戻ってしまったことだけが心残りだが、風呂も入っていない、歯も磨いていないとても汚いあたしだったので、人より早くきれいになれてよかったと思うことにした。

あれだけ繰り返しベトナムの国家を歌ったおかげで、一ヶ月たった今も余裕で口ずさめる。繰り返しが好きな、とっても親切なベトナム。次訪れたときにあの歌を歌えば、またどこかのベトナム人と仲良くなれるに違いない。

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