あれ?あれれ?せ、せまいですね。
船の部屋に案内され、着いたときに出たあたしの独り言である。
せまいのだ。こんなに狭い部屋に住むのは、高校生のときに、悪さをした罰で3畳間があたしの部屋になってしまったとき以来だった。
外から船を見たときは、とても大きくって、白くって、ロマンチックだったのに、あたしがこれから住もうという部屋は、ちょっと古ぼけた朱色を基調としたベッドカバーやじゅうたん、家具(といっても引き出しのみ)があるだけだ。
ベッドに座るときは、背中を丸めないといけないほど、高さがない。
そして、2段ベッドのすぐ上の天井はぼこぼこしており、今にも水がもれてきそうな具合。
もちろん、窓なんてない。
そのために、朝でも夜でもいつでも暗い。
素敵だと思うところは、ひとつもない。
この船はギリシャ船らしく、ギリシャなんて聞こえはいいが、あたしたちに何が影響してくるかというと、お風呂がない。
あるのはシャワーだけ。
彼らはお湯につかるという習慣がないから当たり前のことだと思うが、長風呂を心がけ、せっかく肌の調子も良くなってきた頃だというのに、浴槽がないのはかなりショックだった。
大体、船の旅というのは、今まで経験がないので、どうしてもあのタイタニック号を思い描いてしまうのだ。
いや、あたしだって、こんなに安い地球一周の旅はないと思っているので、まさかローズが暮らしていたあんな立派な部屋を想像していたわけではない。
しかし、この部屋は、ジャックの部屋よりも、あたしが今まで暮らしてきたどんな部屋よりも粗末である。そう、粗末という言葉がぴったりの部屋だった。
もちろん、すばらしい部屋も存在する。お金さえ払えば、白い色調の、窓がある、広々とした部屋は用意される。
しかし、あたしはしがない普通の女。
8年ほどのこつこつ貯金を使って、帰ったら1文無しという覚悟でこの旅を始めたのだ。
部屋なんてせまくても、ベッドに座れなくてもいい。
ただ寝れればそれでいい。がっかりしてる場合ではない。
あたしは、旅をしに来たんだから。
思いつく限りの慰めを自分に唱えながら、下のベッドに寝れるだけでもよかったなと思いつつ、ゆらゆらと波に揺られながら、初めての夜を過ごした。

